ハスラーはスズキのクロスオーバーSUV型軽自動車。本稿では初代MR31S型の5MTモデルを扱う。
出典:ガリバー
初代 スズキ・ハスラーとは?
2013年の東京モーターショーで初公開。翌年2014年1月にデビューとなったスズキ・ハスラー。
軽自動車でありながらクロスオーバーSUVという、(※デビュー当初は)他社モデルにはあまりない異色の軽自動車であった。
あまりというのは、実はスズキには2009年まで、「Kei」というハスラーと同じコンセプトの車があった。生産終了となった後でも雪国では「Kei」が生活の足として現役だった。
それはほどよい車高と大きめのタイヤを持つ軽自動車がワゴンRよりも雪道では強く、ジムニーよりも車内が広くて使いやすいためである。
今回登場となったハスラーはその「Kei」の後継モデルとしつつ、新たに個性的でポップなキャラクターを与え、積雪地域でのKeiの乗り換え需要と新たな客層を狙ったモデルである。
ハスラーはKeiを作った時と同じ手法で、売れ筋であるワゴンR(※Keiのときはアルト)のプラットフォームを流用し、ボディと内装を新設計。
Keiのときと同じくベースモデルよりも車高を上げて最低地上高をアップ(FFで180mm、4WDでは後輪のデフ下は175mmを確保)。
※アプローチアングルは28度、デパーチャーアングルは46度、ホイールベースは2425mm
さらにワゴンRよりもひと回りかふたまわり大きな大径タイヤ(15インチ)を履かせることで悪路、特に積雪地域の雪道などでの走破性を高めた車である。
エンジンはベースとなった5代目ワゴンRと同じR06A型を採用。自然吸気エンジンとターボエンジンの2種類を設定し、「スズキグリーンテクノロジー」を適用。
新軽量衝撃吸収ボディー「TECT」に加えてアイドリングストップ時でも冷たい風を送り出せる「エコクール」を最廉価のAグレード以外で標準装備。
また、エネチャージの搭載でCVT・自然吸気エンジンのFFモデルでは29.2km/l(JC08モード)、CVT・自然吸気エンジンの4WD仕様でも25.2km/l(JC08モード)とワゴンRゆずりの高い燃費性能を実現している。
先進安全技術として、レーダーブレーキサポート「衝突被害軽減ブレーキ」、誤発進抑制機能、エマージェンシーストップシグナル、ESPをセットでAグレード以外のCVT車に標準装備とした。
さらにハスラーはKei時代には無かった悪路走破性を高める「グリップコントロール」を4WD仕様車で標準装備。これ以外では坂道でゆっくりと下る「ヒルディセントコントロール」も標準装備とし、Kei時代よりもSUVの性能をアップさせている。
初代ハスラーの5MTモデルとは?他との違い
初代ハスラーにはデビュー当初から下級グレードに5MTが設定されていた。
これはスポーツモデルという位置づけではなく、あくまで5MTしか乗れない人への配慮的なグレードである。
また、ハスラーの先祖にあたるKeiにも5MTがあったことから、順当な乗り換え候補としての側面もあった。
ハスラーの5MTモデルにはターボの設定がなく、すべて自然吸気エンジンのみの仕様となる。
また、一番安いAグレードと真ん中のGグレードのみに設定され、S-エネチャージなどのマイルドハイブリッドの搭載も最後までなかった。
さらに自動ブレーキの「デュアルセンサーブレーキサポート」、その後にアップデートされた「デュアルカメラブレーキサポート」の搭載も一切なく、硬派なグレードであった(ただし、Gグレードの4WDではヒルディセントコントロール、グリップコントロールは備わる)。
その一方で一番安いグレードのAとミドルグレードのGグレードのため新車価格設定が安いという特徴もあった。
初代ハスラーのマニュアル仕様は自動ブレーキ全盛の時代において、ほとんど装備が付かない硬派な昔ならがらのモデルである。
初代MTハスラー AグレードとGグレードの違い
初代ハスラーに設定された5MTモデルは「A」グレードと「G」グレードの2種類があった。
「A」グレードはハスラーの中でも廉価グレードに位置し、「G」グレードはその次のミドルグレード。
そのため内外装や装備が異なり、Aグレードは最も簡素なハスラーとなる。
Aグレード
ハスラーの廉価グレード。装備が最もシンプルで一番安かったグレード。
外観は樹脂タイプの非塗装ドアミラー(手動ミラー)&アウタードアハンドル、スチールホイール、通常グリルで簡素な見た目に。
ボディカラーも2トーンカラーが非設定で、ハスラーの中でも一番少ない5色のみの設定。
快適装備もマニュアル式エアコンにステアリングチルト機構が非装備。インパネカラーはホワイトで固定でガーニッシュやエアコンリング付近の加飾も省略される。
安全装備はエアバッグ、EBD付きABS。快適装備はキーレスエントリーなど最低限を標準装備するが、自動ブレーキは非設定。
マイルドハイブリッドのS-エネチャージも非搭載で新車価格は安いが、乗用モデルとしては装備が貧素なグレードでもあった。
Gグレード
ハスラーのエントリーグレード。Aグレードよりも内外装が若干良くなる。
外装はボディ同色の電動格納ミラー、アウタードアハンドル、フロントメッキグリルを標準装備。
ボディカラーも2トーンカラーが選択できるようになり、Aグレードよりも豊富な全12色設定。
インパネカラーもボディカラーで変化し、ステアリングガーニッシュ、エアコンリングなど加飾される。
快適装備はフルオートエアコンにステアリングチルト機構、運転席&助手席シートヒーター、を標準装備。
安全装備もEPS、ヒルホールドコントロール、ヒルディセントコントロール(4WD)、グリップコントロール(4WD)、キーレスプッシュスタートシステムなどを標準装備する。
後期モデルはGグレード以上からS-エネチャージが搭載されるため、燃費性能や加速性能が大幅向上したがMTモデルには非搭載だった。
スピードメーターにもデジタルで切替式だが、タコメターが備わるため、初代ハスラーで上級な5MTを買う場合はGグレードの5MTがオススメ。
初代ハスラー5MTのエクステリア(外装)
出典:ガリバー
フロントデザイン。AグレードとGグレードとの大きな違いは外観上なく、基本的には他のCVTグレードとほぼ同じだ。フォグランプやディスチャージライトの設定もなく、ベーシックな顔つきとなっている。
出典:ガリバー
サイド。ベースは同社のワゴンRだが、最低地上高は180mm(4WDではリアのデフ部分が175mm)に高められており、ちょっとした雪道やぬかるみに最適だ。
デザインもボンネット部分を比較的長めに確保し、Aピラーを立たせるさせることでSUV風のスタイリングと適度に広い室内空間を両立した。
前身モデルのKei時代では室内長が1685mmだったが、ハスラーではこの設計により2035mmを確保。
実に35cmも長くなった。さらに室内高さはKeiの1265mmに対しハスラーでは1250mmと若干低くなっているものの、室内幅はKeiの1220mmから1295mmにアップ。
特に長くなった室内長によりかなり広く感じることだろう。
出典:スズキ認定中古車
Gグレードのみボディカラーと同色(ツートンカラーの場合はルーフと同色)の電動格納式ドアミラーを標準装備。
出典:スズキ認定中古車
Aグレードではアルトバンやエブリイの廉価グレードと同じ非塗装・手動タイプのドアミラーとなる。ヒーテッドドアミラーは全グレード標準装備。
さらにドアハンドルもAグレードではアルトバン同様の非塗装タイプとなる。
足元はAグレードとG系グレードで15インチカラードスチールホイール(鉄チンホイール)。タイヤサイズは165/60R15。
スチールホイールでありながらハスラーに良くマッチするデザインとなっており、特にカラー(ホワイトorダークグレー)化されているため雰囲気は良い。
ボディカラーには2トーンルーフカラーを含む最大全11色を用意。Keiの後継として地味なカラーから既存のKeiユーザー以外(特に若者向け)の鮮やかなカラーまで多彩なラインナップとなっている。
ただし、Gグレードでは少なめの全9種類。一番安いAグレードのボディカラーにはツートンカラーの設定がなく、すべてモノトーン仕様となる。
なお、2015年5月マイナーチェンジでは「パールホワイト」との入れ替えで「クリスタルホワイトパール」を新設定。
ツートン仕様も同様に変更され、「クリスタルホワイトパール」、「クリスタルホワイトパール ブラック2トーンルーフ」の2色が追加。
さらに2015年12月マイナーチェンジでは「クリスタルホワイトパール ブラック2トーンルーフ」を廃止し、変わって「アクティブイエロー ブラック2トーンルーフ」、「ポジティブグリーンメタリック ブラック2トーンルーフ」を設定。
加えて新カラーとして「シフォンアイボリーメタリック」が追加となった。
出典:ガリバー
リア。AグレードとGグレードはモデル最後までエネチャージやSエネチャージの搭載がなかった。
このためS-エネチャージのエンブレムが無い。
また、Gグレードの5MTのみアイドリングストップが備わるため、右下に「アイドリングストップ」エンブレムが付く。
エンジン・機能装備・安全装備など
エンジンはR06A型3気筒DOHC自然吸気エンジンのみ。
自然吸気エンジンでは最高出力52ps(38kW)/6000rpm、最大トルク6.4kg・m(63N・m)/4000rpmを発生。
自動ブレーキ等の設定はAとGグレードのマニュアル仕様両方で一切なく、ABSと「車両走行安定補助システム(ESP)」が標準装備となる程度。
GのマニュアルにはCVT車のアイドリングストップとは異なる専用の「停車時アイドリングストップシステム」が備わる。
Gグレードの4WD仕様車では通り悪路走破性を高めるため「グリップコントロール」を標準装備。軽乗用車では初となるグリップコントロールは一般的なSUVが持つデフロック機能に近いシステム。
デフロックそのものは持たないものの、悪路でスタックしそうになったとき自動でスリップしているタイヤを感知。
そのタイヤに対して機械が自動的にブレーキを与えることでグリップする側の駆動力を確保し、スムーズな発進をアシスト。これにより日常走行(特に市街地等での雪道)での走破性が高くなっている。
ちなみにAグレードの4WDではこの装備はつかいない。
これ以外ではGグレードの4WD仕様に坂道でゆっくりと下る「ヒルディセントコントロール」も標準装備。
A以外のCVTグレードに標準装備の「ヒルホールドシステム」は残念ながらAとGのマニュアル仕様では非装備となる。
初代ハスラー5MTのインテリア(内装)
出典:スズキ認定中古車
インパネ。ハスラーの上級グレードではボディカラーによってインパネカラーが変わるが、AとGグレードではホワイト1色固定。
デザインはヘッドライトをモチーフに丸型のエアコンルーバーリング、メーターリング、スピーカーリングを採用。チルトステアリングはAグレード以外で標準装備。
ステアリングはウレタンステアリングホイール。
出典:スズキ認定中古車
スピードメーター。CVTの場合、エコ運転を上部のグリーン(エコ)やブルー(通常)、ホワイト(エネルギー回生)状態を光りで表示(ステータスインフォメーションランプ)で表示するが、MT仕様では非装備。
液晶パネルは「アイドリングストップ時間」、「タコメーター(デジタル式)」、「平均燃費」「瞬間燃費計」、「航続可能距離」など切り替えて表示する(どれか1つのみ表示)。 ※Aグレードでは非装備。
エアコンはAグレードがマニュアル式エアコン。
Gグレードではオートエアコンとなる。
キーレスは旧来の施錠・開場ワンボタン式。
出典:スズキ認定中古車
フロントシートはマニュアル仕様ではセパレートタイプとなる。シートは上級グレードではボディカラーに合わせてシートパイピングが(オレンジ、ブルー、ピンク、ホワイト、グリーン(※2015年12月追加)の計5色へ)変更されたが、Gグレードのマニュアル仕様ではシートパイピングをホワイトに固定。デビュー当初は黒字のシンプルなシート表皮だったが、
出典:スズキ認定中古車
2015年12月のマイナーチェンジ(後期型)でシート表皮が黒基調のデジタルカモフラージュ柄に変更された。
AグレードのMT仕様ではホワイトパイピングなしのシンプルなセパレートタイプとなる。
出典:スズキ認定中古車
Aグレードでも2015年12月の後期型ではシート表皮が変更されている。この他AグレードのFFを除きシートヒーターを標準装備する。
5MTのシフトノブ。かつてのKeiと同じ蛇腹ゴムタイプ。
リアシート。Gグレードではヘッドレスト付き(画像は2015年12月の後期型以降)。
Aグレードはヘッドレストレスとなる(画像は2015年12月の後期型以降)。共に分割可倒式でスライド機構を備え、左右独立して最大160mmスライドする。
出典:スズキ認定中古車
ラゲッジルーム。
出典:スズキ認定中古車
リアシートを倒した状態。助手席は前側に90度倒れるためサーフボードなどの長物も余裕で積める。
スペアタイヤは装備せず、代わりにパンク修理キットが備わる。
初代ハスラー5MTの評価
出典:ガリバー
初代・ハスラーのマニュアルモデルはターボ無し。自動ブレーキなし。マイルドハイブリッド無しにするなど機能を削ぎ落としつつ一番安いAグレードのFFモデルで新車価格110万円から。
一番高いGグレードの4WD仕様でも131万円からとかなり安い価格設定と5MTが楽しめる硬派なモデルであった。
ダイハツやホンダの乗用タイプの軽自動車で、マニュアルモデルが一切設定されない中、軽貨物でなくてデザインが良い乗用な軽自動車でマニュアルが選べる数少ないモデルの一つであり、価格も手頃で良心的であった。
2代目ハスラーにフルモデルチェンジ後は新プラットフォームが影響しデビュー当初からマニュアルが非設定で、2021年9月現在もマニュアルの設定がない。
6代目DA17Vエブリイジョインターボ・5MTの廃止に見られるようにマニュアル需要の少なさから、今後追加設定となるかは不透明だ。
そのため初代ハスラーのMT仕様の中古車は希少な存在となっている。
ちなみに初代ハスラーはマツダへ「フレアクロスオーバー」としてOEM供給されたが、5MTのマニュアル仕様は非設定でスズキのみとなる。
そのため本家・スズキ初代ハスラーのみにしかマニュアルモデルが存在しない。とてもニッチでマニアな軽自動車といえよう。
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