i(アイ)は三菱のセダン型軽自動車。ここではデビューの2006年1月~2007年11月までを前期型とし、これを扱う。
画像参照元:三菱認定中古車
概要
2006年1月に登場したアイの特徴は軽自動車の中でも、R2やR1と同じくらい斬新なデザイン。コンセプトカーをそのまま市販化した異色の軽自動車としてデビューした。
5ドア4人のりの軽自動車としては珍しく、リアエンジン・ミッドシップマウントを採用し、室内空間を確保しながら重量配分の最適化により操縦安定性と走行性能を高めている。
かつてダイムラー・クライスラーとのいざこざがあったせいで途中2回も開発中止になったが、6年ちかく開発期間を経てようやく市販化された。
コンセプトは「軽自動車の新時代を切り開くプレミアムスモール」。
それまでの軽自動車の難題であった「デザインと居住性」、「居住性と衝突安全性」の二律背反する軽自動車の課題をアイではエンジンを後方に配置し後輪をメインとして駆動するリヤミッドシップレイアウト(MR)でアプローチしたものであった。
アイではエンジンをリア後方に配置したことによりデザインの制約から開放され、ボンネットからフロントガラスにかけてなめらから曲線のデザインが与えられ近未来的なワンモーションフォルムのスタイリングに。
またミッドシップレイアウトの特徴を生かしホイールベースは既存の軽自動車ではトップクラスの2550mmを実現していた。また、室内空間はコンパクトカーにも匹敵する居住スペースとラゲッジルームを両立した。
エンジンは新開発となるアルミ製DOHC12バルブMIVECインタークーラーターボエンジンと自然吸気エンジンの2種類を設定。
当時の軽乗用車では珍しい吸気側連続可変バルブタイミング機構のMIVECを取り入れ、これにインタークーラー付きターボと組み合わせてターボ仕様でありながら平成17年排出ガス基準50%低減レベル(☆☆☆)と平成22年度燃費基準を達成していた。
サスペンションはフロントにマクファーソンストラット。リアは3リングド・ディオン式を採用。特にフロントはエンジンが無いことによるサスペンションの適切配置により十分なストロークを確保。
ロングホイールベースとも相まって上質感のあるフラットな乗り心地と優れた直進安定性、ハンドリングをバランスさせた。さらにロングホイールベースでありながらも最小回転半径は4.5m(同年代のeKワゴンと同程度)を達成している。
衝突安全性もフロント部分に十分な衝撃吸収ゾーンを設けることでエンジンが無いデメリットを相殺。フロント以外では大断面ストレートフレーム構造を設けて衝撃をボディ全体で吸収する構造とした。
側面衝突に対してもクロスメンバーやフロア、エンジンなどで全方位衝突安全性を高めている。
アイの特徴と他の軽乗用車との大きな違い
アイの最大の特徴はその丸っこい外観もあるが、エンジンを後方に配置し、後輪を駆動するMR方式を採用している点。
一般的な軽乗用車はエンジンをフロントに配置し、前タイヤを駆動するFFが主流で、一部ジムニーなどクロカン系やエブリィなどの軽バンではFRが採用されるものの、量産車でMR方式を採用する軽乗用車はとてもめずらしい。
過去にはスバル時代のディアスワゴンやサンバーバンがRR方式を採用していたが、これに匹敵するぐらい凝ったメカニズムを採用している点が他の軽乗用車との大きな違いである。
MR方式ゆえにリア寄りの前後重量配分(45:55)によりハンドリングもFFよりも素直で機敏に動き、高回転域では可変バルブタイミング機構も働いてスポーティーな走りを楽しめるなど優れた特徴がある。
またMR方式を採用したことで当時の軽乗用車としてはかなりのロングホイールベースである点もポイント。これにより直進安定性に優れたモデルでもある。
さらにエンジン搭載位置が低く低重心で、重量配分もとも相まって走りの性能も高い。
なお、この手のセダンタイプの軽自動車にしては後部座席が広く、ラゲッジスペースも奥行きが結構あり、使い勝手は良好。リアシートを倒すとフルフラットになる。
前期型アイのグレード構成 S、M、G、リミテッド、プレイエディションの違いなど
前期型アイのグレード展開は下から順に「S」、「M」、「G」の3種類。
全グレードでターボエンジンを搭載し、エントリーグレードのSグレードでも新車価格が1,281,000円からという、当時としては価格設定が高いモデルであった。
※2007年12月マイナーチェンジ(中期型)以降では自然吸気エンジンが追加され、装備見直しとグレード体系整理でエントリーグレードの新車価格が安くなる。

なお、通常モデル以外に特別仕様車として前期では「リミテッド」と「プレイエディション」の2種類が設定されていた。
S
前期型アイのエントリーグレード。ターボエンジンを搭載するが一部快適装備などをオプション設定することで価格を抑えたグレード。
エクステリアではディスチャージヘッドランプ、アルミホイール、プライバシーガラス、電動格納ミラー、リバースポジション連動リヤ間欠ワイパー&ウォッシャーがオプション設定。
インテリアではフルオートエアコンを標準装備するが、キーフリーシステムやプッシュエンジンスタート(キーレスオペレーションシステム)がオプション設定。
快適装備はパワステ、パワーウィンドウなどが標準装備だがインパネ一体型CD・AM/FMラジオ+スピーカーがオプション設定のオーディオレス仕様となってた。
さらにインテリアは標準のグレーインテリアで固定。HDDナビゲーションは全グレードにオプション設定する。
安全装備は運転席&助手席エアバッグにABSを標準装備する。
M
前期型アイのミドルグレード。Sグレードよりも快適装備が標準装備となり、利便性がアップする。
エクステリアではプライバシーガラスを標準装備。Mグレード以上ではUV&ヒートプロテクトガラスがフロントウィンドウに標準装備。
快適装備はインパネ一体型オーディオを標準装備する。
インテリアではMグレード以上でレッドインテリアが選択可能となり、グレー内装かレッド内装かの2色から選択可能となる。
G
前期型アイの最上級グレード。Mグレードの装備に加えて内外装の質感が高くなる。
エクステリアでは15インチアルミホイールとディスチャージヘッドランプを標準装備。
インテリアでは本革巻きステアリングと本革巻きシフトノブの標準装備で、上級感がプラスされる。
特別仕様車 プレイエディション
2006年5月設定の特別仕様車。当時人気となっていたアイポッドと連携したAV一体型ナビゲーションを標準装備とした特別モデル。
「プレイエディション」はMグレードをベースにアイポッドナノを専用スロットルに差し込むだけでHDDナビゲーションに接続可能としたオーディオ&ナビゲーションシステムを標準装備。
既装備のフロントスピーカーに加え、フロントにツィーターをプラスして4スピーカー仕様に。
リヤスピーカーも2つ加えて計6スピーカーシステムとして音質の向上を図った。
これ以外にとフロントマップランプ(室内灯)をクリアー化。外装ではサイドターンランプをクリアー化し、プレイエディション専用のフロントスカッフプレートに専用エンブレムを採用。
ボディカラーはアイポッドナノに合わせてホワイトパールとブラックマイカの2色を設定。
さらに新車の成約特典として『i(アイ)』ロゴ刻印入りスペシャルiPod nano(2GB)』を付与するアイ×アイコラボの特別仕様車。


特別仕様車 リミテッド
2006年7月設定の特別仕様車。
エントリーグレードのSグレードをベースにアイ専用デザインの一体型AM/FMラジオ付CDプレーヤー+4スピーカーやプライバシーガラス(リヤドア・テールゲート)などの快適装備を標準装備しつつ、Sグレードよりもお買い得とした特別仕様車。
Sグレードにはプライバシーガラスや一体型オーディオがオプション設定にもかかわらず、リミテッドの方が安いというビックリ仕様でもあった。
エクステリア(外装)
フロント
フロントデザイン。スバルのR1およびR2のように他の軽自動車にまったく似ていない個性的な顔つきだ。
バンパー部も他車とは異なり、アーチ部分ががフロントバンパーよりも前に飛び出ておりまるで近未来のコンセプトカーのようなデザインとなっている。
これを軽自動車で実現しているのだからアイのデザインはかなり大胆で挑戦的といえる。
ボンネット内
アイのボンネット内にはエンジンが無く、使い勝手を考慮してバッテリーやウォッシャー液補充口などが配置される。
サイド。
サイドから。ミッドシップマウントにより室内長は軽自動車最長の2,550mmを確保。2006年時点であのN-BOXの2520mmをしのいでいる。
さらに軽自動車では唯一後面オフセット衝突にも対応している。また、リアエンジンがある荷物室は防熱対策がしっかりとされているので、荷物への影響はない。
アイの純正タイヤサイズ、ホイールキャップ
タイヤサイズは前後とも15インチだが、扁平率が異なりフロントが145/65R15。リアが175/55R15。荷重の重たいリアタイヤをワイド化することで、グリップ性能や優れた操縦安定性を実現する。
SとMグレードはスチールホイール+ホイールキャップ。アルミホイールはオプション設定。
アイの純正15インチアルミホイール
上級グレード(Gグレード)ではアルミホイールを標準装備。
リア
リア。このあたりはR2のリアに似ている。コンビランプはマルチリフレクター式を採用し、全グレードにハイマウントストップランプが付く。
プライバシーガラスはSグレードでオプション設定。
エンジン・機能装備・安全装備など
3B20型可変バルブタイミング機構(MIVEC)搭載エンジン
エンジンは前期型は3B20型直列3気筒DOHCターボのみ。これをラゲッジスペース下に斜め45度に傾斜させて搭載するMR方式を採用。
シリンダーブロックをアルミ化し、インテークマニホールドには樹脂製を採用。さらに電子スロットルの採用でターボエンジンでありながら滑らかなアクセルフィーリングを実現した。
さらにこのエンジンはアイでMR方式を実現スべく斜め45度に傾斜した状態で専用設計されたエンジンで、一般的なFF車のエンジンのように上方向に高さがなく、横方向に長い不思議な形状をしている。当時の三菱の技術力の高さがうかがえるシロモノ。
ターボエンジンには吸気側に可変バルブタイミング機構(マイベック)が付いては最高出力64ps(47kW)/6000rpm、最大トルク9.6kg・m(94N・m)/3000rpmを発生。
斜め45度に傾斜させて搭載したエンジンは、ボディスタイルとは想像できないぐらい低重心となり、ロングホイールベースやMR方式と相まって驚くほどスポーティな走りを楽しめる。
トランスミッション、駆動方式、安全装備など
トランスミッションは4ATのみ。駆動方式はMR(ミッドシップエンジンリアドライブ)または4WDとなる。
安全装備として全グレードで運転席&助手席エアバッグにABSを全グレードに標準装備する。
三菱アイの持病・AT(オートマ)の不調&故障
三菱アイの持病として、ATの変速不良がある。これは3速から4速にシフトアップするとき、ギアが抜けて4速に入らなくなる現象だ。
同年代の2代目パジェロミニ、トッポBJ、eKワゴン、eKスポーツの4ATでも同様の不具合が見られる。
内容はバルブボディ内部のストッパープラグに不具合が生じて変速が上手く行われにくくなる。
これが発病すると冷間時に1速から2速へシフトアップするときに、ムチウチのような大きな変速ショックが発生しする。特に高速走行や登坂走行などを繰り返し、ATFが高油圧走行となるような使い方をすると壊れやすい。
アイの4ATに関するリコール情報:ミニカ、トッポBJ、eKシリーズ、アイの4A/T(バルブボデー)について
故障した場合はバルブボディASSYの交換で治るケースもあるがバルブボディで完治しない場合はATミッション交換修理となり、20万~30万円ほどかかるケースも。
そのためアイを購入する場合はかならず試乗して変速ショックが無いか、同時にリコール対応で対策部品に交換済みかを確認することと強くオススメする。
三菱アイ ターボ車の見分け方
三菱のアイは中期型から自然吸気エンジンが追加され、ターボ付きとターボなしの2種類となった。
ただし一昔前のターボ車のようにボンネットにエアダクトが空いておらず、外観で見分けるのは少しむずかしい。




前期型であればターボ車のみバンパー下部が黒く塗り分けされているので、前期型のターボ車と中期以降の自然吸気エンジンとの見分けは可能だ。
ただし、中期型以降ではターボ車でもバンパー下部がボディ同色となったため、中期以降では見分けが難しい。
なお、インテリアでは最上級Gグレード(後期はTグレード)のみ本革巻きステアリングや本革シフトノブが付いているので、このあたりもターボ車の見分けるポイント。
Mグレードに関してはGと同じくターボ仕様だが、本革巻きステアリングでの判断はつかず、見分けが難しい。
アイの盲点 タイヤ代が高い&打開策
アイは純正で前後違うタイヤサイズを採用している。これはMR方式によりリアの荷重が重たく、それを反映させてリアを太くしたためだが、まるでスポーツカーのS660のような構成である。


これが原因で、量販店(カー用品店)などで4本セットのタイヤを購入する際セット品が買えずコストがかさむ問題がある。
そのためアイはタイヤを購入する際は一般的な軽自動車よりもタイヤ代が高くなる傾向がある。特にスタッドレスタイヤ購入の際はそれが顕著で、15インチという少し大きめなサイズも要因だ。
タイヤ代を少しでも抑えたい場合は、ネット通販のバラ売りで前後2本ずつ購入し、取り付けれもらう方法がオススメ。
量販店では売れ筋のタイヤサイズ以外は割引がきかず、特殊サイズかつ2本ずつのアイ純正サイズも割引がほとんどない。
ネット通販であれば元々が安く、かなり安価に購入可能。取付が必要だが提携店や持ち込み可のお店を利用すればネット通販のタイヤでも問題ない。
そのためアイでタイヤ代を安く済ませたいのならネット通販によるタイヤ購入がオススメである。
インテリア(内装)
インパネ
インパネ。同年代のeKワゴンと比べるとすべて専用設計で、かつデザインが近代的でありコストがかかっていたのが容易に想像できる。ただし質感はプラスチック感があり、少しチープ。
本革巻きステアリング
ステアリングは上級のGグレードで本革巻きステアリング。
ウレタンステアリング
SとMはウレタンステアリング。
スピードメーター
スピードメーターはタコメーターがアナログ、スピードメーターがデジタルのハイブリッド式。
同年代のeKワゴンのメーターと構成は似ているが、こちらの方がシンプルかつ実用的なデザインで、どこか近未来的な雰囲気も感じさせるデザイン。今見ても古さを感じさせない。
フルオートエアコンパネル
エアコンは全グレードでオートエアコン(脱臭機能付クリーンエアフィルター)を採用。
一体型オーディオ
アイ純正AM/FMラジオ付CDプレーヤー。インパネ一体型オーディオで、デザインもかなり洗練されている。
なお、社外品オーディオやHDDナビゲーションを取り付ける場合は専用パネルに交換して2DINタイプを取り付ける。
シフトレバー
シフトは当時の軽自動車には珍しいゲート式フロアシフトを採用。
上級グレードではシフトノブの本革巻き仕様となる。
フロントシート(グレーインテリア)
フロントシートはセパレートタイプ。Sグレードではグレーインテリアのみ。
フロントシート(レッドインテリア)
MとGグレードではオプション設定でレッドインテリアが選択可能。シート表皮とインパネカラーの一部が赤色に変更さされる。
リアシート
リアシート。スライド機構が非装備で同年代のライバル他車(ワゴンRやムーヴ)に比べるとさすがに厳しいが、この手の軽自動車にしては足元は広く取られている。
ラゲッジスペース
ラゲッジルーム。エンジンがこの下にあるので他の軽自動車よりラゲッジルームが上方向に少し狭くなっている。
ただし、スライド機構付きの軽自動車と比べると奥行きは意外とあって、荷物は結構載せられる。
ちなみにこのようにリアにエンジンが格納されている。
リアシートを倒した状態。フルフラットにすると高さが同じになるので使い勝手はかなり良い。
アイのまとめ
前期型アイの総評
アイの前期モデルはその奇抜で斬新なボディスタイルにMR方式レイアウトを採用し、斜め45度傾斜のマイベック搭載エンジンや超ロングホイールベース、前後異型タイヤなど三菱の技術を詰め込み誕生させたスペシャリティカーだった。
走り出すとその外観から想像できないほど低重心で、ターボエンジンによるパワーとMRによる軽快な走りで他の軽自動車にはない独特の魅力を持つモデルとなっていた。
その一方で独特なスタイリングと引き換えに当時の売れ筋モデルのワゴンRやムーヴと比較すると室内が狭く、また新車価格も高めだった。
時代はタントなどのハイト系が流行りだした時期で、同じ値段を出すならより室内が広い軽乗用車が選ばれたのもあると思う。
また、女性向けのモデルでありながら乗り心地はスポーティー志向で固く、その点も不評であった。
中期や後期モデルでは価格を抑えた自然吸気エンジン仕様や、女性向けに特化させたブルームエディションなど、バリエーションが増えていく。


アイは不人気ゆえに割安、中古車はお買い得だが故障には注意
中古価格的には不人気車の部類に入り、年式・走行距離の割に全体的に安い個体が多い。奇抜なデザインとリアエンジンに抵抗が無いのなら、検討の一つになるだろう。
ただし上述の4ATの不具合があり、最悪ミッションブローで高額な載せ替え修理となりうるため購入の際にはかならず試乗して状態をよく確認することを強くオススメする。
なお、MIVECターボエンジンはモデル後半になると排ガス規制もあってエンジン特性がマイルドになる。そのため走りを求める場合は前期型のアイがオススメ。


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