ピクシスバンはトヨタのワンボックス型軽自動車。4ナンバー軽貨物(軽バン)で、ダイハツ・ハイゼットカーゴのOEM車種である。本稿では2011年12月~2017年10月までを前期型とし、これを扱う。
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初代 トヨタ・ピクシスバンとは?特徴など
トヨタの軽自動車は全てグループ傘下のダイハツから供給されているが、ワンボックスタイプであるピクシスバンは2011年12月に発売。ワゴンタイプのピクシススペースに続き2番目の登場となった。
本家には乗用モデル(アトレーワゴン)と商用のバンタイプ(ハイゼットカーゴ)の2タイプがあるが、トヨタに供給されたのはこのうちの商用バンタイプとなる。
モデルとしては10代目ハイゼットカーゴの中期モデル(2007年12月マイナーチェンジ~)がOEM供給された。
ピクシスバンはトヨタ初の軽商用車として、コンパクトなボディに取り回しの良いサイズ感、十分な積載能力、環境性能や経済性を兼ね備えるモデル。
エクステリアはオーソドックスかつスタイリッシュなヘッドライトに存在感の高いバンパーやグリルで商用車でありながら洗練された顔つきに。加えてトヨタエンブレムを与えることでブランドの安心感もプラス。
インテリアでは大型グローブボックス、アンダートレイなど収納スペースを配置したインパネにすっきりとした足元空間で快適性を追求。
バックドアはテールランプをバンパー下部に配置することで開口幅1,335mm、開口高1,145mmを確保。荷室地上高も635mmとしたことで荷物の積み下ろしを容易とした。
室内空間は当時の軽バンとしてはクラストップレベルの荷室長1,860mm・荷室幅1,315mm・荷室高1,235mm(※デラックスとスペシャルのハイルーフ車)を確保。
エンジンは連続可変バルブタイミング機構を取り入れたKF型エンジンと同インタークーラー付きターボエンジンを設定。
4ATと5MTを組合せて街中では機敏な走りを。クルーズターボでは伸びやかな高速走行を実現した。
初代ピクシスバン(S321M/S331M)のグレード構成、スペシャル、デラックス、クルーズ、クルーズターボの違い
グレード構成はダイハツ・ハイゼットカーゴとまったく同じ。
下から順に廉価グレードの「スペシャル」、「スペシャルクリーン」、エントリーグレードの「デラックス」、上級グレードの「クルーズ」、上級ターボ仕様の「クルーズターボ」の5種類。
特別仕様車の設定は一切なく、基本グレードのみとなる。
スペシャル
スペシャルは廉価グレード。
最も装備が簡略化されたグレードでキーレスエントリー、パワーステアリング、パワーウィンドウ、プライバシーガラス、ABSなどがレス仕様(非装備)となる。
また、ボディカラーもホワイト一色のみでドアミラーは樹脂タイプの手動ミラーとなる。
スペシャルクリーン
スペシャルクリーンはスペシャルをベースとした環境対応車で、クリーンエンジンを搭載し、自動車重量税が免税されるエコカー減税やグリーン税制に特化させたグレード。装備はスペシャルと同じ。
デラックス(DX)
デラックス(DX)はミドルグレード。
スペシャルに対してキーレスエントリー、パワーステアリング、パワーウィンドウ、運転席エアバッグ、プライバシーガラスが標準装備となる。
ただし助手席エアバッグとEBD付きABSはオプション設定。ボディカラーも増えてホワイト、ファインシルバー、ブラックマイカメタリックの3色。
クルーズ&クルーズターボ
クルーズとクルーズターボは上級グレード。
デラックスの装備に対して助手席エアバッグやEBD付きABS、ボディカラー同色電動格納ミラーが標準装備となり、ボディカラーもブラックマイカが選択可で全4色(※ただし中期型以降はブルーマイカメタリックが消滅で全3色)。
フロントシートとリアシートがアトレーワゴンと同じヘッドレスト分離型の上級シートとなり、快適性が向上する。
さらにクルーズターボではハイゼットカーゴ唯一のターボ仕様となり、力強い走りが特徴となる。
ピクシスバンの標準ルーフとハイルーフ車の違い
ピクシスバンの標準ルーフ仕様はスペシャルグレードのみの設定で、デラックスより上のグレードではハイルーフ仕様のみとなる。
ハイルーフ車は全高が高く室内空間も高くなる他、運転席頭上にはオーバーヘッドコンソールを備え小物の収納スペースとしても有効。
ただしその分全高が高いがゆえに悪天候時に風の影響を受けやすく車体が不安定になりやすい。
初代・前期型ピクシスバン(S321M/S331M)とハイゼットカーゴ(S321V/S331V)との違い
OEM元のダイハツ・10代目ハイゼットカーゴとの違いはエンブレム程度で、それ以外はまったく同じ。そのため外観ではエンブレム以外で見分けることは難しい。
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さらにグレード構成もピクシスバンとハイゼットカーゴとではまったく同じで。ただしハイゼットカーゴに設定のあった特別仕様車や、2シーター、ダブルキャブ仕様のデッキバンの設定は無い。
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ただし、ダイハツエンブレムがトヨタエンブレムになることで、ダイハツのイメージからトヨタのイメージに様変わりする「エンブレム効果」がピクシスバンにはある。
中身はまったく同じなのだが人によってはエンブレムで雰囲気が異なる兄弟モデルである。
なお、見た目は同じ10代目中期型ハイゼットカーゴだが、3ATが廃止され4ATのみとなった2010年8月以降のモデルがトヨタにOEM供給されている。
そのためピクシスバンには3ATモデルは存在しない。
エクステリア(外装)
フロント
出典:トヨタ認定中古車
フロントデザイン。トヨタへのOEM供給にあたり、変更された点はエンブレムのみで、この点は他の車種(ピクシススペースやピクシススエポック等)とまったく同じだ。
シンプルさを追求したフロントデザインは、個性こそ薄いものの誰からも受け入れやすいオーソドックスな顔つきをしている。商用バンというところで無難なデザインだ。
なお、フロントバンパーはハイゼットカーゴ(S321V/S331V)の2007年12月のマイナーチェンジ以降のモデルがOEM供給されているため、前期のバンパーとはデザインが異なる。
サイド
出典:トヨタ認定中古車
サイドから。この手のワンボックスはボンネットエリアを極端にまで切り詰め、室内空間を確保している。スライドドアは商用なため非電動で手動式。
廉価グレードのスペシャルではリアのプライバシーガラスが非設定で、キーレスエントリーも非装備、ドアミラも樹脂タイプの手動ミラーで簡略化される。
逆にクルーズとクルーズターボではプライバシーガラス、キーレスエントリー、電動格納ミラー(ボディ同色で着色)を標準装備。乗用モデルのような快適装備がプラスされる。
ピクシスバンの純正タイヤサイズ&ホイールキャップ
足元は12インチスチールホイール。タイヤサイズは145R12-6PRLT。
クルーズとクルーズターボではホイールキャップが標準装備となる。
リア
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リア。バンパー下部にテールランプを配置し、リアゲートの開口部を大きくとったデザイン。これによりテールランプがリアゲートにあるモデルよりも荷物の積み下ろしがしやすくなっている。
トヨタ仕様としてはダイハツエンブレムをトヨタエンブレムへ変更。ハイゼットカーゴの車名デカールはPIXIS VANへ変更されている。
ただし車名デカールはハイゼットカーゴがダイハツエンブレムの右上に対し、ピクシスバンでは左上に貼り付けされる。
エンジン・機能装備・安全装備など
エンジン
エンジンは新開発のKF型エンジンを搭載。可変バルブタイミング機構付きで直列3気筒DOHC自然吸気エンジンはKF-VE型、同インタークーラー付きターボエンジンはKF-DET型。
自然吸気エンジンの最高出力は50ps(37kW)/5700rpm、最大トルクは6.5kg・m(64N・m)/4000rpm。
スペシャルクリーンのみ53ps(39kW)/7200rpm、最大トルクは6.1kg・m(60N・m)/4000rpm。
ターボエンジンの最高出力は64ps(47kW)/5700rpm、最大トルクは10.5kg・m(103N・m)/2800rpm。
2015年4月一部改良では自然吸気エンジンの圧縮比向上が図られ出力と燃費がアップ。自然吸気エンジンのAT仕様の最高出力は53ps(39kW)/7200rpm、最大トルクは6.1kg・m(60N・m)/4000rpm。
自然吸気エンジンのMTモデルでは最高出力は46ps(34kW)/5700rpm、最大トルクは6.1kg・m(60N・m)/4000rpm。
ターボエンジンの最高出力は64ps(47kW)/5700rpm、最大トルクは9.3kg・m(91N・m)/2800rpmとなった。
トランスミッション&駆動方式&安全装備など
トランスミッションは5MTまたは4AT。2015年4月の一部改良ではATが電子制御式4ATに変更。ワイヤー式スロットルから電子制御スロットルとなった。
駆動方式はFRまたは4WDで、4WDは運転者が任意に切り替えて使うパートタイム4WDとなる。
安全装備は全グレードに運転席&助手席エアバッグを標準装備。EBD付きABSはクルーズグレードに標準装備。スペシャルやデラックスではオプション設定。
ピクシスバン S321MとS331Mとの違い
初代ピクシスバンS321MとS331M型との違いは駆動方式。S321Mは後輪を駆動する2WD(FR)の初代ピクシスバン。
S331MはS321M型ベースで全輪を駆動する4WDの初代ピクシスバン。
S331Mの4WDシステムにはパートタイム4WDが採用されており、運転者が任意に切り替えることで普段は燃費の良いFR。いざという時は4WDという使い方ができる。
ただしジムニーやパジェロミニ同様に舗装路などの急カーブや駐車場での駐車時にタイトコーナーブレーキ現象が起きやすく、扱いには注意が必要だ。
インテリア(内装)
インパネ
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インパネ。商用モデルとあってシンプルなデザイン。運転席まわりにスイッチを集中し、大型グローブボックスやアンダートレイ、アッパーボックスなど収納スペースも追加されて使い勝手が向上している。
ハイルーフ車では運転席上にオーバーヘッドコンソールが備わり、小物や軽い重量物を収納するスペースも設定される。
ステアリングはウレタンステアリング。クルーズとクルーズターボではセンターコンソールがシルバー塗装され、ステアリングオーナメントがメッキ仕様となる。
スピードメーター。スペシャル、スペシャルクリーン、デラックス、クルーズはタコメーター無しの単眼式。
クルーズターボ(ターボモデル)では右下にコンパクトなタコメーターが追加される。
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ステアリングはウレタンステアリング。
5MTのシフトノブ。ATともにインパネシフトを採用し、足元空間が広々としている。エアコンはマニュアル式エアコン。
4WDモデルではパートタイム式となり、インパネのスイッチで操作する。
スペシャル&デラックスのフロントシート
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デラックスグレードのフロントシート。ヘッドレスト一体型の軽バン的なシート。
サポートが無い点と生地自体も薄いため長距離はかなり辛い。近場の配達や街乗りが中心のシートとなる。
クルーズ&クルーズターボのフロントシート
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クルーズとクルーズターボではヘッドレスト分離型のセパレートシートとなる。こちらはサイトサポートが少し付いており、快適性がアップする。
スペシャル&デラックスのリアシート
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スペシャルとデラックスグレードのリア。商用バンによくあるヘッドレストの無いその場しのぎ的なシート。たまに乗る分にはいいが、常に後部座席には乗りたくないシート。
クルーズのリアシート
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クルーズグレードのリアシート。ヘッドレストが付いており、こちらも乗用を考えたシートになっている。リアの足元自体はワンボックスだけあって広めとなっている。
なお、メーカーオプションの「ビジネスパック」を選択すると、クルーズとクルーズターボでもリアシートにデラックスやスペシャルと同じ一体可倒式シートが選択できた。
クルーズやクルーズターボでも2名乗車や荷物を乗せる人がメインの場合はこのオプションを選んだ人もおり、そのため中古車によってはクルーズやクルーズターボでもリアシートが軽バン仕様の個体がある。
ラゲッジスペース
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ラゲッジスペース。
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リアシートを倒した状態。
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スペシャルやデラックスのヘッドレスト一体型シートはこのように前側にも倒せてデスクのように使えたり、長物を積むときにも重宝する。
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スペシャル&デラックスとクルーズ&クルーズターボではラゲッジスペースの素材が異なり、スペシャル&デラックスでは汚れても大丈夫なラゲッジマット。
クルーズとクルーズターボではアトレーワゴンと同じカーペット素材が用いられる。
まとめ
出典:トヨタ認定中古車
ピクシスバンはエンブレム以外はベースと変わらないモデルだが、ピクシスエポック同様にエンブレムだけの違いでもパッと見雰囲気が少し違ってみる不思議な軽バンである。
ピクシスバンはトヨタ初の軽商用バンとして王道中の王道的モデルがOEM供給され、スズキ・エブリイ連合(NV100クリッパー、スクラムバン、ミニキャブバン)に対抗すべくスバル・サンバーと3兄弟モデルとしての誕生となった。
中身自体は完全に10代目ハイゼットカーゴで、室内空間が広く、リアも開口部が広く荷物の積み下ろしがしやすい。
最上級のクルーズターボであれば5MTにターボの組み合わせもあり、走りを楽しみたい人には嬉しいグレード構成もホットな点。
税金も軽貨物なので軽乗用モデルよりも安く、維持費的にも嬉しい。ただし車重が重たく、4ATだと燃費もそんなに良くないのでその点は注意点としてあげておく。
ピクシスバンはハイゼットカーゴ同様にワンボックスタイプで5MT&ターボの軽自動車が欲しい人にオススメな1台だ。
中古市場ではハイゼットカーゴに比べると1/6程度しかタマ数がなく、少し探しづらい1台。それでもエンブレム効果による雰囲気やハイゼットカーゴとは被らない珍しさ、場合によってはハイゼットカーゴの部品(メッキグリルなど)を流用したりとOEMモデルらしい遊び心もある。
中古価格的にはハイゼットカーゴと変わらず、この前期モデルであれば年数経過もあり買いやすい価格帯。
この後の後期型ではフロントデザインやテールランプ、インパネのデザインを大幅変更し内外装をよりスタイリッシュにしたマイナーチェンジが実施される。
中古価格的には高くなるが、デザインにこだわりたい人は後期型もオススメだ。
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