アルトはスズキのハッチバック型軽自動車。「アルトワークス」はそのスポーツモデルである。本稿では2015年に復活した(アルトワークスとしての)5代目 HA36S系を扱う。
出典:スズキ認定中古車
スズキ 5代目・アルトワークスとは?
2015年12月におよそ15年ぶりに復活したスズキのアルトワークス。
2015年の東京モーターショーで参考出品されたときは、スズキの他のどのモデルよりも注目度が高く、アルトワークスのまわりにはひとだかりができるぐらいだった。
2015年3月のアルトターボRS登場時から復活の噂は出ていたが、スズキは市場における予想以上の要望をすぐさまフィードバックし、その年の12月には販売開始までこぎつけた。
ベースは既に登場していたアルトターボRS。

パット見では5AGSのみだったミッションに5MTを追加し、外観を一部モデファイしただけにみえるが、見えない部分ではスポット溶接で剛性を上げるなどワークス専用の処置が施されている。
5代目アルトワークスの特徴と8代目アルト(HA36S)との違い
①ワークスのための専用チューニング
5代目アルトワークスではワークスのためだけに専用開発したパーツが装着される。
マニュアルトランスミッションはショートストロークで1速から4速をクロスレシオ化。スコスコ入りの良い操作感とクロスレシオによる加速感を味わえる。
AGSも専用チューニングが施され、ターボRSよりもダイレクトな加速感を実現。パドルシフトも備えた。
ターボエンジンもアルトターボRSからトルクを高め、かつアクセルレスポンスを向上。加えてメーター内にターボのブースト表示を設けた。
サスペンションも専用チューニングを施し、ショックアブソーバーには純正でKYB社製を採用することで接地感や応答性、高い操縦安定性を追求した。
②走りを期待させる専用デザイン
内外装も8代目アルトとアルトワークスでは完全に差別化され、ワークスはスポーティな専用品が与えられる。

5代目アルトワークス
エクステリアには
- ワークスエンブレム内蔵の専用パンバー
- ブラックメッキヘッドランプ(プロジェクター式)
- フォグランプ
- フロントバンパーロアガーニッシュ
- リアバンパーロアガーニッシュ
- サイドデカール
- ワークスエンブレム
- 15インチアルミホイール
- フロントレッドブレーキキャリパー
- リアスポイラー
ボディカラーは赤、白、シルバー、黒系を設定。
インテリアには
- レッドステッチの本革巻ステアリングホイール
- サテンメッキ調のエアコンサイドルーバーリング&エアコンセンタールーバー
- Worksロゴ入り専用スピードメーター(タコメーター&ブーストインジケーター付き3眼タイプ)
- レッドステッチのシフトブーツ
- ブラックドアトリムパネル
- 専用レカロシート
などを標準装備とした。
これらの追加装備でターボRSよりも20万ほどアップの約150万円からの価格設定とし、軽自動車の枠のとらわれないライトウェイトスポーツとして魅力が高いモデルに仕上がっている。
5代目アルトワークス(HA36S) 2型、3型の改良点と違い
5代目アルトワークス(HA36S)はデビュー当初から外装な内装を変更する大きな変更(マイナーチェンジ等)がなされていないが、以下に小改良を列挙する。
2017年5月の一部改良
2017年5月の改良ではホワイト系ボディカラーの小変更が行われ、それまでの「ホワイトパール」から、「ピュアホワイトパール」へ変更された。
2018年12月 2型改良
2018年12月の2型改良では5AG車に自動ブレーキの「デュアルセンサーブレーキサポート」が新規に搭載された。
これにより誤発進抑制機能、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車発進お知らせ機能、ハイビームアシストを搭載した。
さらにリヤバンパーに内蔵した4つの超音波センサーで後退時の衝突回避または被害軽減を図る「後退時ブレーキサポート」、後方誤発進抑制機能、リヤパーキングセンサーも追加された(※5MT車は従来どおりいずれも非設定)
出典:スズキ認定中古車
さらに2型改良ではボディカラーの入れ替えが行われ、それまでの赤系「ピュアレッド」を廃止。入れ替えで青系の「ブリスクブルーメタリック」を新設定した。
そのためピュアレッドは1型のみのカラー、ブリスクブルーメタリックは2型以降のカラーで見分けられるようになった。
2020年10月 3型改良
2020年10月の3型改良ではオートライト義務化に対応するため、オートライトOFFスイッチを廃止。常時オートライトON仕様となった。
またグレード整理で5AGSのFF(2WD)がカタログ落ちで廃止。この時にカタログ燃費表示が従来のJC08からWLTCでの測定値に変更されている。
5代目アルトワークス(HA36S)の生産終了と後継モデルについて
次期モデルの6代目アルトワークスは当初同日発売との情報があったものの、ベースのアルトが9代目へフルモデルチェンジした際にラインナップされることなく、2022年5月現在のところ5代目を最後に生産終了となっている。
9代目アルトではアルトバンが需要低迷から未設定であるが、ワークスに関しては次期モデルを開発しているとの噂もあり、5代目同様に遅れて登場する可能性が高いと見られている。

5代目アルトワークスのエクステリア(外装)
フロント
出典:スズキ認定中古車
フロントデザイン。アルトターボRS用のバンパー&グリルをベースにワークス専用のエンブレムとそれを収めるくぼみが追加されている。
「WORKS」エンブレムの配置は実質的な前モデルであったKeiワークスのようなデザインで、ターボRSとは差別化されている。
大きすぎず小さすぎもしない適度なサイズのエンブレムで、控えめにワークスであることを主張する部分だ。こういった部分は所有欲を満たしてくれるポイントである。
これ以外にアルトターボRSではフロントバンパーロアガーニッシュに赤いラインが入っていたが、ワークスでは落ち着いた感じのブラックへ変更されている。
サイド
出典:スズキ認定中古車
サイドから。アルトターボRSではスポーティーで派手な赤いデカールだったが、ブラックを貴重とし、3本のアクセントラインに赤で「WORKS」と書かれたデカールに変更されている。
また、ドアミラーもボディ色と統一され、ちょっと派手な感じのアルトターボRSから落ち着いたデザインに変更されている。サイドからもワークスは差別化されている。
純正アルミホイール、タイヤサイズ、サスペンション
これ以外にフロントブレーキキャリパーが赤に塗装されている。タイヤは標準でブリジストンのPOTENZA RE050Aを装着。タイヤサイズは165/55R15。アルミホイールはENKEI製。
出典:スズキ認定中古車
足回りもワークス専用品となり、KYB製ショックアブソーバーが標準装備。キビキビとリニアに応答する操作性、ロールスピードを低減しコーナリング時の挙動変化をさらに抑えた安定性、より手応えのあるダイレクトな操舵感を目指して専用チューニングが施されている。
なお、4代目アルトワークスやKeiワークスではリアもディスクブレーキだったが、新型では一般的なドラムブレーキ(リーディング・トレーリング)となっている。


リア
出典:スズキ認定中古車
リア。右側に赤い「WORKS」エンブレム。アルトエンブレムはとても小さくその右下に貼り付けられている。アルトターボRSではアルトエンブレムとターボRSエンブレムがほぼ同じ大きさだったので、ワークスを主張したい部分の現れだろうか。
この他アルトターボRSではルーフスポイラーとバンパー下部のリヤバンパーロアガーニッシュが赤に塗装されていたが、ワークスではフロントやサイド同様にボディ色またはブラックへ変更されている。
エンジン・機能装備・安全装備など
エンジンはR06A 型直列3気筒DOHCインタークーラー付きターボエンジンのみ。アルトターボRSよりも最大トルクを10.0kgから10.2kgへアップ。アクセルレスポンスを高めた専用チューニングが施されている。
エンジンはR06A型直列3気筒DOHC自然吸気エンジンのみ。最高出力は64ps(47kW)/6000rpm、最大トルクは10.2kg・m(100N・m)/3000rpm。
トランスミッションは専用開発の5MTもしくは5AGSの2種類。5MTではショートストローク化&1速~4速のクロスレシオ化。
5AGSでもアルトターボRSよりも変速タイミングがチューニングされ、よりスポーティーなシフトチェンジが可能となった。
駆動方式はFFまたは4WDの2種類。安全装備としてはレーダーブレーキサポート、誤発進抑制装置、、エマージェンシーストップシグナル、ヒルホールドコントロールが5AGS車のみ標準装備、横滑り防止装置のESPは5AGSとマニュアル車で標準装備。
5代目アルトワークスのインテリア(内装)
インパネ
出典:スズキ認定中古車
インパネ。アルトターボRSでは赤がアクセントとして用いられれていたが、アルトワークスでは外観と同様にブラック系で統一されている。エアコンサイドルーパーリングはシルバー系のサテンメッキ調に変更。
本革巻きステアリング
出典:スズキ認定中古車
ステアリングはレッドステッチ入の本革巻ステアリングホイール。
Works専用スピードメーター
スピードメーター。ワークス専用品で右側の「WORKS」ロゴがその気にさせてくれる。
なお、ワークスではターボのブーストインジケーターがメーター内に備わる。かつてのターボ車でよく見られたブーストインジケーターだが、アルトワークスでは加給圧に応じて白から赤へ変るようになっており、加給圧のかかり具合が標準でわかる仕様だ。
アルトワークスの加速とブーストインジケーターの様子。動画は5AGSだが、これでも結構速い。
シフトノブ
出典:スズキ認定中古車
マニュアルシフトの様子。赤の刺繍が施されたブーツを履いてかなり本格的だ。写真ではちょっとしか写っていないがペダルプレートはステンレス製。
出典:スズキ認定中古車
5AGSの場合はアルトターボRSと同じくインパネシフトとなる。こちらもレッドステッチ入りシフトブーツが装着される。
エアコン
出典:スズキ認定中古車
エアコンはフルオートエアコン。
出典:スズキ認定中古車
なお、3型改良時にオートライトOFFスイッチが廃止され、常時オートライトオン仕様となった(法律で手動でOFFにできない仕様に)。
純正RECAROシート(フロント)
出典:スズキ認定中古車
フロントシートはレカロ製バケットシートタイプを標準装備。前モデルのKeiワークスではセミバケットシートだったので、より走りに重点を置いたシートとなっている。
このシートは軽自動車用に専用設計されたもので、横幅がスッポリと収まるようになっている。
ただし純正状態では着座位置が少し高めで人によっては違和感を感じる場合もある。標準アルトやターボRSに付いていたシートリフターが非設定なためこのままでは調整ができないが、社外品でシートポジションを下げられるアフターパーツが販売されているので、社外シートレール等にて対応可能だ。
リアシート
出典:スズキ認定中古車
リアシート。アルトターボRS同様に左右一体型だ。
ラゲッジスペース
出典:スズキ認定中古車
ラゲッジルーム。
出典:スズキ認定中古車
リアシートを倒すと実用的な荷室が生まれる。アルトターボRS同様にハッチバックタイプなので荷物が積めるという実用性も確保されている。
5代目アルトワークスのまとめ
5代目アルトワークスの総評
5代目アルトワークスはアルトターボRSをベースに専用チューニングを施し、ワークスの名に恥じない走りを極めたモデルとなっている。
かつてKeiにワークスを被せた「Keiワークス」では重くなりすぎた重量や腰高ボディのせいで「ワークスではない!」との批判もあったが、低い車高に軽いボディの新型アルトワークスではそれが完全に払拭されており、名実ともワークスの復活といえよう。

アルトターボRSではマニュアルモデルが無いことに躊躇していた人も晴れて5MTの追加で購入に踏み切れるだろうし、新車価格でも150万円前後という価格でこの性能は収入の少ない若い世代へもアピールできる部分だ。

かつて若者向けと謳ってたものの高くなりすぎたトヨタの86などとは価格面で大きなアドバンテージがあり、スズキ自体はあまり明言していないが86ではなく、新型アルトワークスが若者の車離れを引き止めるモデルとなりえると思う。
ハスラーの時もそうだったが、ユーザーの要望をきっちりと組み上げ市販化。世に出してくれたスズキに拍手を送りたい。そう思わせる新型アルトワークスである。
5代目アルトワークスの生産終了とその理由
久しぶりのホットモデルの復活で大人気となった5代目アルトワークス。その5代目アルトワークスも登場から約6年後の2021年11月に生産終了となった。
理由としては厳しくなる法規制(衝突安全性や燃費性能、騒音規制)に対応できず、ベースのアルトも9代目へとフルモデルチェンジすることから、一旦生産終了という形になった。
その後は6代目が登場するかしないかはスズキから名言されておらず、結果的に現在では生産終了という形になっている。
5代目アルトワークス(HA36S)の高騰?中古価格が上昇中 今後は?
9代目新型アルトの発表時にまさかの6代目の発表がなかったアルトワークス。
9代目アルト登場時は、発売まじかとの噂や観測記事、憶測Youtube動画などが出回っているが中古市場では生産終了と次期モデルの発売が無いことから徐々に中古価格が上昇した。
元々アルトワークスは8代目アルトに比べると生産台数が少ない割に人気モデルであったため、中古市場では価格も高めであった。
そこにきて次期モデルが無いことが判明し、(※N-ONEのRSを除いて)新車では買えない軽セダンタイプでMT&ターボのホットモデルとしての需要が高まっている。

9代目アルトベースの新型アルトワークス(HA37S)が登場し、コロナ渦も落ち着けば価格も少しは下がると思うが、少なくとも新型アルトワークスが出てくるまでは中古価格上昇は止まらないと思う。
半導体不足などの納車遅れが改善し、若干価格も落ち着きつつああるが今後もセダンタイプでスポーツ志向のMT&ターボ車の新車ラインナップがほとんどない中、スポーツタイプのMTターボ車を求める需要から今後も顕著に推移すると推測する。
なお、9代目アルトにMTモデルが無くなったことから新車で買えるセダンタイプのMT車が絶滅。中古市場では軽セダンタイプのMTモデルの人気が高まりつつある。

価格は10万キロ走行であっても100万円が付く場合があったり、低走行であれば新車価格を上回るなど、かなり割高感がある。
特に一昔前に流行ったラパンSSやKeiワークスあたりも人気で、ATは全然安いのにMTモデルはかなりの値段が付く状態となっている。

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