ワゴンRはスズキのワゴン型軽自動車。本稿では6代目・後期モデルのエントリーグレード、MH85S型に設定されたマニュアルグレードの「FX 5MT」を扱う。
出典:スズキ認定中古車
6代目 スズキ・ワゴンRとは?
2017年2月にフルモデルチェンジし、6代目となったスズキ・ワゴンR。
6代目の大きな特徴は大幅に変更されたデザインとマイルドハイブリッド(旧称:S-エネチャージ)の進化、デュアルカメラブレーキサポートに変る「デュアルセンサーブレーキサポート」や、「ヘッドアップディスプレイ」の軽初採用、さらに広くなった室内空間や利便性能の向上などがあげられる。
まずデザイン面ではそれまでの4代目~5代目にかけてのワゴンRのイメージを大幅刷新。
デザインには初代ワゴンRのモチーフを取り入れかつそれまでのノーマルとカスタムモデルの2本構成からノーマルを1種類、カスタムを2種類の合計3種類の顔つきの異なるモデルを設定した。
これはワゴンR史上では初の試みで、先行するスペーシアシリーズ(スペーシア、スペーシアカスタム、スペーシアカスタムZ)に続く2例目の3モデル構成となった。
インテリアでもワゴンRでは初となるセンターメーターを採用。インパネデザインも水平基調をベースに横長のインパネカラーパネルにより開放的な視界と室内空間を演出している。
先代までの「S-エネチャージ」は6代目で一般的な「マイルドハイブリッド」に名称変更。システムもISG(モーター機能付き発電機)を高出力化。
リチウムイオン電池も大容量化したことでモーターによるクリープ走行(アイドリングストップ後の発進時に最長10秒間)、発進から時速100kmまでのモーターアシストなどが可能となり、ハイブリッド機能の強化とさらなる低燃費(33.4km/L(JC08モード))を実現した。
またボディも軽量化と高剛性を両立した新プラットフォーム「ハーテクト」を採用。足回りやボディ、プラットフォームの軽量化により先代比20kgの軽量化を実現。
安全技術としてはそれまでのレーザーレーダーを用いた「レーダーブレーキサポート」から、単眼カメラと赤外線レーザーセンサーを組み合わせた「デュアルセンサーブレーキサポート」に変更。
先代のレーダーブレーキサポートでは非搭載だったハイビームアシスト機能を新たに盛り込み、従来どおりの誤発進抑制機能、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車発進お知らせ機能を搭載している。
さらに軽自動車としては初の「ヘッドアップディスプレイ」を新採用。走行中の視線移動を少なく、安全運転に配慮した。
室内空間は6代目で新プラットフォーム「ハーテクト」の採用により完全新設計。室内長は歴代最長の2450mmを実現(先代比で約300mmアップ)し、広々とした室内空間した。
また、リアコンビネーションランプを初代と同じバンパー下部に移動したことでラゲッジルームの開口部を100mm拡大。3代目エブリイワゴンのように商用車のような使い勝手を実現した。
6代目後期型ワゴンRとは? 改良点や前期型との違いなど
その6代目ワゴンRは2022年8月に一部仕様を実施した。本稿ではこれ以降の6代目ワゴンRを後期型とする。
6代目後期ではグレード体系が変更となり、標準ワゴンRの廉価グレード「FA」を廃止。かつてのミドルグレード「FX」を復活し名称変更した。
また標準ワゴンRのグレード構成も変更し、マイルドハイブリッド非搭載は「FX」、マイルドハイブリッド仕様は「ハイブリッド FX-S」とし、5MT仕様の廉価タイプはFXに継続設定となった。
カスタムモデルの「スティングレー」は自然吸気エンジン仕様を廃止し、ターボモデルのみに集約。
出典:スズキ認定中古車
また、新モデルとして既存のFZグレードを廃止し、「ワゴンR カスタムZ」を新設定。
カスタムZでは往年スティングレーでも見られた水平基調のヘッドライトやグリルを採用し先代スティングレーのような雰囲気とした。
またカスタムZではFZには非設定だったターボ仕様と自然吸気エンジンの2種類を設定。
エクステリアでは標準ワゴンRのフロントデザイン(グリルとバンパー)を変更。
一方で前期に搭載されていたモーターによるクリープ走行がR06Dエンジン搭載のMH95S型で削除。先行して2型改良時にMH55S型が非搭載となったが、後期モデルで全グレード非搭載となった。
自動ブレーキ関係では後期モデルで夜間の歩行者検知を可能とした「デュアルカメラブレーキサポート」に変更。
「アダプティブクルーズコントロール(全車速追従機能付)」と「車線逸脱抑制機能」はFXグレード以外に新規追加し、標準装備とした。
安全装備ではエアバッグの数を増やし、フロントシートSRSサイドとSRSカーテンを加えた6エアバッグに変更。
オプション設定の全方位モニター付ディスプレイオーディオは後期モデルでスズキコネクト対応品が追加された。
快適装備は前期モデルのFAなどでで非装備だった
- オートエアコン
- キーレスプッシュスタートシステム
- 運転席シートヒーター
- タコメター付き自発光2眼式スピードメーター
をMTモデルを含めた全グレードに標準装備化。
「FX」以外の全グレードには「USB電源ソケット[Type-A / Type-C]」も標準装備とし使い勝手を向上した。
ボディカラーも変更となり、
標準ワゴンRは
- 「ブリスクブルーメタリック」
- 「アクティブイエロー」
- 「フィズブルーパールメタリック」
を廃止し、入れ替えで新色
- 「フォギーブルーパールメタリック」
- 「テラコッタピンクメタリック」
- 「ダスクブルーメタリック」
を追加。
スティングレーは「クールカーキパールメタリック」を廃止し、入れ替えで「デニムブルーメタリック」を追加。
カスタムZはスティングレーと共通の6色に、ハイブリッドFZの「ノクターンブルーパール」と「クールカーキパールメタリック」を含めた全8色を設定。
6代目ワゴンR(MH85S)・後期型5MT車の特徴と他グレードとの違い
ワゴンR 5MTモデルの概要と歴史、設定の背景など
本稿で扱う6代目ワゴンRの5MT仕様車(FA/5MT)は6代目のフルモデルチェンジから遅れること半年後に追加となったグレードである。
初代から歴代ワゴンRはMT仕様を設定する硬派なモデルで、6代目でも継続設定された。
かつてのワゴンRは2代目のRRに代表されるようにターボ&5MTの組み合わせが存在したが、3代目以降はターボ仕様を完全廃止。
グレード構成も先代5代目までは最廉価のFAと次のFXの2本立てだったが6代目ではFAのみとなった。
これはMT仕様がAT仕様に比べて全然売れないためで、メーカーとしては売れないMTに2グレード用意する必要もないと判断したと思う。
それでもMT仕様しか乗れない特に高齢の方のお客さんのために残し続けているので、非常に良心的なメーカーでもある(ライバルとなる同年代のダイハツ・ムーヴもホンダ・N-WGN、日産・デイズや三菱eKワゴンはMT仕様は非設定)。
後期型ワゴンR FX 5MTモデルの特徴と前期ワゴンR FA・5MTとの違いなど
そして6代目の後期型マイナーチェンジでは廉価グレードのFAが廃止となり、代わってミドルグレードのFXをベースに5MTモデルが新設定された。
後期モデルではフロントグリルのデザインが変更され、スタイリッシュ感がアップしたほかミドルグレードのFXがベースとなったことで機能装備や快適装備、安全装備が拡充された。
グリルデザインはそれまでのオーソドックスな長方形のメッキグリルから、一本ラインのシンプルなグリルに変更。
インテリアではそれまで非装備だったタコメーターが新規追加され、マルチインフォメーションディスプレイも追加された。
快適装備や機能装備もマニュアル式えエアコンからフルオートエアコンに変更。プッシュエンジンスタート&キーフリーシステム、運転席シートヒーターを標準装備化。
※ただし上級グレードFX-Sの運転席シートリフターやチルトステアリング、エコクール、USB電源ソケットは非装備
そして安全装備としてデュアルカメラブレーキサポートを標準装備化。それまでのFAベースのMTモデルでは自動ブレーキが非設定だったが、後期FXの5MTモデルでも新規追加となった。
ただし、追加された先進安全装備は
- 衝突軽減ブレーキのデュアルカメラブレーキサポート
- 車線逸脱警報機能
- ふらつき警報機能
- 先行車発進お知らせ機能
- ハイビームアシスト
- リアパーキングセンサー
のみで、CVT仕様で搭載される
- 誤発進抑制機能
- 後退時ブレーキサポート
- 後方誤発進抑制機能
- アダプティブクルーズコントロール(ACC・全車速追従機能付)
は省略され非装備となる。
またエンジンも前期FAのモデル終盤で採用された新型のR06D型エンジンを採用。6代目前期モデルよりも燃費を向上させている。
ただしこれら安全装備や機能装備の追加により車重が前期モデルよりも20kg増加。後期のFFモデルで750kgとなるなど、若干重量増となった。
また、FXグレードがベースのためマイルドハイブリッドは非搭載となる。
ボディカラーも後期モデルではピンク系が追加され、
- 「フォギーブルーパールメタリック」
- 「テラコッタピンクメタリック」
- 「ダスクブルーメタリック」
を追加。一方で前期のボディカラーからは
- 「ブリスクブルーメタリック」
- 「アクティブイエロー」
- 「フィズブルーパールメタリック」
の3色が廃止となった。
出典:スズキ認定中古車
このほかは前期と同じで、CVT仕様とは異なりMT仕様ではインパネシフトからフロアシフトに変更し、パーキングブレーキをレバーによる手動式に。
後期モデルでは前期の仕様変更でFAグレードに適用されたブラックインテリアが採用される。
フロントシートもベンチシートからそれぞれ分離したセパレートシートを採用。
これ以外にもヒルホールドコントロール、リアヒーターダクト(4WDは標準装備)。
足を置くフットレストも非装備となる。ただし5MT独自の新装備として「エンジンクラッチスタートシステム」が標準装備となる。
6代目ワゴンR・MT仕様の廃止(4型改良)と復活&値上げについて
2023年10月2日の一部仕様変更では原材料の高騰などによりメーカー小売希望価格を変更。乗降シート車を除いて全グレード一律77,000円アップとなった。
さらにFXグレードのみに設定されていたMT仕様がスイフトスポーツと同じくして廃止。これによりCVTのみとなった。
このほかCVTグレードでは法律対応に伴って仕様変更された。
その後、同年の2023年11月13日にはFXの5MT仕様についても一部仕様変更を実施し、カタロググレードとして復活。再び新車で5MTのワゴンRが購入可能となった。恐らく法規に対応させるべくMT仕様は時間がかかり、CVT仕様との同時販売とはならなかったと管理人は推測する。
ただし原材料費などの高騰を理由にFX・5MTの2WDと4WDの両方を含めた全グレードで77,000円の値上げが実施された。
6代目ワゴンR(MH85S)・5MT車は速い?楽しい?
6代目ワゴンRの5MT車はターボこそ無いものの、この手のワゴンタイプとしては軽量な750kg(※FFモデル)という車重もあってキビキビとした走りをみせる。
前期モデルよりも20kg重量が増加し、絶対的な速さはないものの日常使いにおいてはなんら不満がないレベルに仕上がっている。
特にエブリイなどの軽ワンボックスタイプと比べるとかなり軽量で、重量面でのアドバンテージはワゴンRにある。
そして近年の軽自動車としては珍しい5MTゆえに街乗りであってもシフトチェンジやクラッチ操作など運転している感覚が楽しいモデルでもある。
決して「高齢者向けの救済グレード」では終わらない面白いグレードだ。
ただ、シフトフィールなどは安い軽自動車レベルで人によってはしっくりとこない部分もある。
そのため購入する場合は必ず試乗して満足できるかどうか体験することをおすすめする。
6代目ワゴンR FX・5MTのエクステリア(外装)
出典:スズキ認定中古車
フロントデザイン。5MTグレードは最廉価グレードである標準顔のFXグレードのみ。オーソドックスで初代ワゴンRのようなベーシック感のつよい顔つきとなる。
後期モデルではグリルの開口部やメッキ加飾部分のデザインが変更され、よしスタイリッシュ感が高まった。
出典:スズキ認定中古車
ヘッドライトもマルチリフレクターヘッドライトにハロゲンランプの組み合わせ。純正LEDやディスチャージヘッドライト、フォグランプ等は非設定。
出典:スズキ認定中古車
サイド。ドアミラーやドアハンドルはボディ同色タイプを採用し前期とこのあたりは同じ外観。リアガラスやリアクォーターガラスもスモーク仕様となる。
アルトバンやエブリイバンの廉価グレードでは無着色の樹脂パーツ&ノンプライバシーガラスとなる場合が多いので、この点は嬉しい。
出典:スズキ認定中古車
足元は14インチフルホイールキャップを標準装備。タイヤサイズは155/65R14。
出典:スズキ認定中古車
リア。このあたりも廉価グレードゆえに質素な感じだが、見た目的には「ハイブリッド」のエンブレムがない程度でひとつ上のFXグレードと同じ外観となる。リアガラスはスモーク仕様だ。
コンビランプはノーマルモデルでもインナーメッキを用いて質感をアップ。ストップランプはLEDとなり、歴代ワゴンRの廉価グレードの中でも2代目MC系の後期モデルと同じく質感が高い。
エンジン・機能装備・安全装備など
出典:スズキ認定中古車
エンジンはR06D型直列3気筒DOHC自然吸気エンジンのみ。後期モデルでは2020年1月の一部仕様変更で採用された新型エンジンを搭載。
最高出力は49ps(36kW)/6500rpm、最大トルクは5.9kg・m(58N・m)/5000rpm。(※可変バルブタイミング機構を採用)。
前期モデルよりも最大トルクや最高出力が若干抑えられ燃費がさらに良くなっている。
トランスミッションは5MTで駆動方式はFFまたは4WD。
安全技術としては
- エマージェンシーストップシグナル
- EBD付4輪ABS+ブレーキアシスト
- 横滑り防止装置のESP(車両走行安定補助システム)
- オートライトシステム
に加え後期モデルでは自動ブレーキなどが追加装備となり、
- 衝突軽減ブレーキのデュアルカメラブレーキサポート
- 車線逸脱警報機能
- ふらつき警報機能
- 先行車発進お知らせ機能
- ハイビームアシスト
- リアパーキングセンサー
を標準装備する。
6代目ワゴンR FX・5MTのインテリア(内装)
インパネ。後期モデルではFXグレードとなったため、タコメーター付きスピードメーターやフルオートエアコンの採用などにより若干質感がアップした。
従来シフトレバーがあったインパネ中央部は5代目アルトワークスの5MT車と同じく小物入れスペースに置換される。ステアリングはウレタンステアリングホイール。
出典:スズキ認定中古車
スピードメーターはタコメーター付きの2眼式スピードメーターを採用。さらに右側にはマルチインフォメーションディスプレイも追加され質感がアップした。
出典:スズキ認定中古車
エアコンはフルオートエアコンを採用。ATモデルでシフトノブが収まっていた部分は、5代目アルトワークスと同じく収納スペースに変更されている。
出典:スズキ認定中古車
フロントシートはセパレートタイプ。MTモデルのみの専用シートで、非ベンチシートとなる。
FXベースとなったことで上級装備の「プッシュエンジンスタート」も標準装備化。「キーフリーシステム」も搭載し、近代的なエンジンスタート&ドアロック施錠解除となった。
5MTのシフトノブ。シフトブーツにゴムの蛇腹を採用した軽トラのようなデザイン。これはこれで味がある。なお、5MTモデルではエンジンクラッチスタートシステムを標準装備する。
出典:スズキ認定中古車
リアシート。スライド機構付き。このあたりは前期モデルと同じ。
出典:スズキ認定中古車
ラゲッジルーム。
リアドア両側には軽自動車初となるアンブレラホルダーを標準装備とした。
出典:スズキ認定中古車
リアシートを倒した状態。ラゲッジルーム開口部は上述のとおりコンビネーションランプがバンパー部に移動したことにより軽ワンボックスのような大開口部を実現。おおきな荷物を載せる際に重宝する。
6代目ワゴンR FX・5MTの総評
6代目後期型ワゴンRに設定された5MTのFXグレードは、前期モデルよりもスタイリッシュになったグリル、タコメーターやフルオートエアコン、プッシュエンジンスタートの標準装備化。
そしてMT仕様でもデュアルカメラブレーキサポートや車線逸脱警報機能やふらつき警報など、安全装備が拡充化されるなど装備が豪華になった。
その分新車価格も上昇し、前期モデルよりも約12万円ほど上昇し121万円からとなるなど、少し値上げとなった。
ただし装備を考えると妥当な金額であり、自動ブレーキ義務化を考慮するとミドルグレードベースでありながら逆に装備を厳選し、価格上昇を最低限に抑えたとも捉えられスズキの企業努力が感じ取れるマイナーチェンジでもある。
ライバル他社が軽バンや軽トラを除いてほとんどMTモデルを設定しないなか、室内が適度に広く実用性も高いトールワゴンのワゴンR5MTモデルは、かなりホットなモデル。
軽バンや軽トラ以外の手頃な5MTの軽自動車として、隠れた人気を持つグレードである。
2023年10月2日以降はMT仕様が廃止されたため、新古車を含む中古車のみでの入手可能な絶版モデルになった。
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